アトピー性皮膚炎の原因・症状・治療法を皮膚科専門医がやさしく解説
はじめに
「かゆくて夜も眠れない」「肌が荒れて人の目が気になる」——アトピー性皮膚炎は、見た目の問題だけでなく、生活の質(QOL)にも大きく影響する病気です。日本では子どもから大人まで多くの方が悩んでいて、有病率は小児で約10〜15%、成人でも約2〜10%といわれています[1][2]。
アトピー性皮膚炎とは?



アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返す皮膚の病気です[1]。アレルギーを起こしやすいアトピー素因を持つ方に多く見られます。日本皮膚科学会のガイドラインでは「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒(そうよう)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されています[3]。
乳幼児期に発症することが多いですが、最近は大人になってから初めて発症したり、一度良くなっても再発したりするケースも増えています。「子どもの病気」というイメージがあるかもしれませんが、大人のアトピーも決して珍しくありません。
原因とメカニズム
アトピー性皮膚炎は「皮膚バリア機能の低下」が主体となり、「免疫の過剰反応」が起こることで発症します[1][2]。
皮膚バリア機能の低下

健康な肌は、表皮の一番外側にある角層(かくそう)がバリアの役割を果たし、外部の刺激や乾燥から体を守っています。アトピー性皮膚炎の方は、このバリア機能に関わるフィラグリンというタンパク質の遺伝子に変異が見つかることがあります[1][4]。フィラグリンが十分に作られないと、肌がカサカサと乾燥しやすくなり、ダニ・花粉・ほこりなどのアレルゲン(抗原・微生物)や刺激物質が外から入り込みやすくなります。
免疫の過剰反応

バリアが弱い肌から異物が入り込むと、体の免疫システムが過剰に反応して炎症が起きます。アトピー性皮膚炎では、Th2(ティーエイチツー)と呼ばれる種類の免疫反応が強く働き、IL-4やIL-13といったサイトカインと呼ばれる炎症を引き起こす物質がたくさん分泌されます[2][5]。これが「かゆみ→掻く→バリアが壊れる→さらに炎症が悪化する」という悪循環を生んでしまいます。

【アトピー性皮膚炎における免疫ネットワーク】
悪化因子

遺伝的な要因に加えて、乾燥、汗、ストレス、寝不足、ダニ・ほこり、特定の食べ物などが症状を悪化させることがあります[3]。どの要因がどれだけ影響するかは人によって異なるため、ご自身の「悪化パターン」を知ることが大切です。
症状の特徴

アトピー性皮膚炎の症状は年齢によって出やすい場所が変わります[1][3]。
- 乳児期(2歳未満):顔(頬やおでこ)や頭に赤い湿疹やジクジクした病変が出やすい
- 小児期(2〜12歳):首、肘の内側、膝の裏など関節の曲がる部分に湿疹が多くなる。皮膚が厚くゴワゴワになる苔癬化(たいせんか)を起こすこともある
- 思春期・成人期:顔や首、上半身に症状が出やすくなる。乾燥が強く、皮膚がゴワゴワする
共通しているのは「かゆみ」と「良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な経過」です。かゆみは特に夜間や入浴後に強くなる傾向があり、睡眠に影響を与えることも少なくありません。
アトピー性皮膚炎では、本来なら神経がないはずの皮膚の表面(表皮)に神経が伸びてくることでかゆみや知覚過敏が起こります。

検査と診断
アトピー性皮膚炎の診断は、主に症状の特徴と経過から臨床的に行います[3]。日本皮膚科学会のガイドラインでは、以下の3つが診断の基本とされています。
- かゆみがあること
- 特徴的な湿疹の分布(年齢による違いを含む)
- 慢性・反復性の経過(乳児では2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上)
補助的な検査として、血液検査でアレルギーに関わる抗体であるIgE値や、病勢のマーカーであるTARC値を測ることがあります。TARCは病気の勢い(重症度)を反映しやすく、治療の効果を見るうえでも参考になります。
治療法
治療の基本は「薬物療法」「スキンケア(保湿)」「悪化因子の除去」の3本柱です[3]。
薬物療法
外用薬(塗り薬)
塗る量の目安はフィンガーチップユニット(FTU)——軟膏やクリームタイプなら大人の人差し指の先から第一関節まで、ローションタイプなら一円玉大、出した量で、手のひら2枚分の面積に塗るのが目安です。


- ステロイド外用薬:

アトピー性皮膚炎の治療の中心です[3]。炎症を抑える力がウィークからストロンゲストまでの5段階に分かれており、症状の強さや部位に合わせて使い分けます。「ステロイドは怖い」と感じる方も多いですが、皮膚科医の指導のもとで正しく使えば安全で効果的な薬です。
- タクロリムス軟膏(プロトピック®):

ステロイドとは異なる仕組みで炎症を抑える免疫抑制外用薬です。特に顔や首など皮膚が薄い部分に適しています。長期使用でもステロイド外用薬で見られるような、皮膚が薄くなる皮膚萎縮(ひふいしゅく)が起こりにくいのが利点です[3]。使い始めにピリピリとした刺激感を感じることがありますが、使い続けることで少しずつ軽減していきます。使用量の制限があります。
- JAK阻害外用薬(デルゴシチニブ軟膏/コレクチム®):
2020年に登場した比較的新しい外用薬です。JAKという酵素の働きをブロックして炎症を抑えます。ステロイドともタクロリムスとも異なる新しい選択肢です。使用量の制限があります。

- PDE4阻害外用薬(ジファミラスト軟膏/モイゼルト®):

2022年に発売された非ステロイドの塗り薬です。炎症に関わるPDE4という酵素をブロックし、かゆみや赤みを抑えます。ステロイドのような皮膚が薄くなる心配が少なく、顔にも体にも使え、塗る量に上限がないのが特徴です。症状が落ち着いたあとの維持療法としても使いやすい選択肢です。
- プロアクティブ療法
症状が落ち着いた後も、以前湿疹が出ていた部位にステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を週2回程度継続的に塗る方法です[3]。見た目がキレイになっても、皮膚の下では炎症がくすぶっていることがあります。プロアクティブ療法は再発を防ぎ、長期的な肌の安定に効果的であることがわかっています[3]。
全身療法(飲み薬・注射)
外用薬だけでは十分にコントロールできない中等症〜重症の方には、全身的な治療が選択肢になります。
- 生物学的製剤(デュピクセント®・ミチーガ®・アドトラーザ®・イブグリース® ):

炎症やかゆみを引き起こすIL-4・IL-13・IL-31などの特定のサイトカイン(免疫細胞が出す、免疫を司る物質)の働きをピンポイントでブロックする注射薬です。
原因となる分子だけを狙い撃ちするため効果が高く、中等症〜重症のアトピー性皮膚炎で全身療法の中心となる選択肢です。自宅での自己注射にも対応しています[5][6][9]。
- JAK阻害薬(内服薬/バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ):



免疫のシグナル伝達に関わるJAK経路をブロックする飲み薬です。即効性があり、かゆみへの効果が早いのが特徴です[3][10]。
これらの新しい治療法は保険適用で受けられますが、使用の条件や定期的な検査が必要です。主治医とよく相談して決めましょう。
- 抗ヒスタミン薬(ルパフィン®・ビラノア®・アレグラ®など):

アトピー性皮膚炎のかゆみを和らげる目的で使われる飲み薬です。かゆみの原因物質のひとつであるヒスタミンの働きをブロックします。ただし皮膚の炎症そのものを抑える薬ではないため、ガイドラインでは外用療法の補助療法として、眠くなりにくい第2世代抗ヒスタミン薬の使用が提案されています。あくまで外用治療が治療の中心で、内服は補助的な位置づけです。
スキンケア(保湿)

アトピー性皮膚炎の方にとって、保湿はもっとも基本的かつ重要なケアです[3]。皮膚のバリア機能を補い、乾燥を防ぎ、外部からの刺激を減らす効果があります。1日2回、保湿剤を全身にたっぷり塗りましょう。「ティッシュが肌にくっつくくらい」が目安です。
処方薬ならヘパリン類似物質や尿素、市販薬ならセラミド配合のものがおすすめです。
入浴のポイント
ぬるめのお湯(38〜40℃)に浸かり、長風呂は避けましょう。石鹸はよく泡立てて手でやさしく洗い、ゴシゴシこすらないことが大切です。洗浄力の強いボディソープよりも、低刺激性のものを選ぶと肌への負担が減ります。
衣類・寝具の工夫
肌に直接触れる衣類は綿素材がおすすめです。ウールやチクチクする素材は刺激になることがあります。寝具はこまめに洗い、ダニ対策として防ダニカバーの使用も検討してみてください。
悪化因子を遠ざける生活習慣

ダニ・ほこり・花粉を入れないようにこまめに掃除する、ストレスを溜めない、睡眠をしっかり取る。地味な対策ですが、とても大切です。
これから暑くなってくる時期はダニが増えやすいのでお布団を干したり、布団乾燥機を使用した後に布団用の掃除機を使うこともおすすめです。
ストレスとアトピー性皮膚炎
ストレスや睡眠不足は免疫バランスを崩し、アトピーの悪化因子になります[7][8]。完璧を目指す必要はありませんが、休息を十分に取り、自分なりのリラックス方法を見つけておくのがおすすめです。
こんなときは皮膚科を受診しましょう
以下に当てはまる場合は、早めに皮膚科専門医を受診されることをおすすめします。
- 市販の保湿剤や薬を使っても2週間以上改善しない
- かゆみで睡眠に支障が出ている
- 湿疹がジクジクしている、黄色い汁が出ている
- 症状が広範囲に広がっている
- ステロイドの使い方に不安がある
アトピー性皮膚炎は、適切な治療を継続することで多くの方が良い状態を保てる病気です。「たかが皮膚のこと」と我慢せず、ぜひ専門医に相談してくださいね。
まとめ
アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の低下と免疫の過剰反応が複雑に絡み合って起こる慢性の病気です。治療の3本柱は「薬物療法」「保湿を中心としたスキンケア」「悪化因子の対策」。近年はデュピルマブなどの生物学的製剤やJAK阻害薬など新しい治療の選択肢も広がり、以前よりもずっとコントロールしやすくなりました。
大事なのは、正しい知識を持って、自分に合った治療とケアを無理なく続けることです。
参考文献
1) Langan SM, Irvine AD, Weidinger S. Atopic dermatitis. Lancet. 2020;396(10247):345-360. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32738956/
2) Weidinger S, Novak N. Atopic dermatitis. Lancet. 2016;387(10023):1109-1122. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26377142/
3) 日本皮膚科学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopic_dermatitis_guideline.pdf
4) Palmer CN, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, et al. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis. Nat Genet. 2006;38(4):441-446. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16550169/
5) Bieber T. Atopic dermatitis. N Engl J Med. 2008;358(14):1483-1494. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18385500/
6) Simpson EL, Bieber T, Guttman-Yassky E, et al. Two Phase 3 Trials of Dupilumab versus Placebo in Atopic Dermatitis. N Engl J Med. 2016;375(24):2335-2348. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27690741/
7) Lönndahl L, Abdelhadi S, et al. Psychological stress and atopic dermatitis: a focus group study. Ann Dermatol. 2023;35(5):342–347.
8) Bawany F, Northcott CA, Beck LA, Pigeon WR. Sleep disturbances and atopic dermatitis: relationships, methods for assessment, and therapies. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021;9(4):1488–1500.
9) Kabashima K, Matsumura T, et al. Nemolizumab JP01 and JP02 Study Group. Nemolizumab plus topical agents in patients with atopic dermatitis (AD) and moderate-to-severe pruritus provide improvement in pruritus and signs of AD for up to 68 weeks: results from two phase III, long-term studies. Br J Dermatol. 2022;186(4):642–651.
10) He Q, Xie X, et al. Janus kinase inhibitors in atopic dermatitis: an umbrella review of meta-analyses. Front Immunol. 2024;15:1342810.
